1)卵形成:卵巣の中の卵は「受け身」の存在で卵胞細胞によって制御されていると考えられてきた。しかし、本研究の成果により卵子を見る目が変わりつつある。卵子は生理活性物質を分泌し、卵巣内現象を「能動的」に調節していることを明らかにした。卵丘のグリコサミノグリカン産生は卵子の分泌する蛋白によって促進され、卵胞周囲の血管形成や卵の生存を促進し、排卵へと導く。一方、卵丘のヒアルロン酸は、CD44を介して卵成熟を促進する。また、哺乳類の卵形成の選択性は血管形成の偏りにもとずくことや卵の死滅にかかわるfas-fasリガンドの役割を明らかにした。2)卵成熟:性腺刺激ホルモンがMPFを活性化するメカニズムには、哺乳類独特のものがあることを明らかにした。成熟卵は第二減数分裂中期で休止し、排卵され、精子を待つが、この休止に、c-mos遺伝子産物のかかわることをノックアウトマウスを用いた実験で明らかにし、さらにc-mos欠損マウスでは受精しても減数分裂から脱出できないことを示した。EGFを含む卵成熟誘起培養液を開発した。卵胞液から卵成熟に伴う卵丘膨化に係わる因子を同定した。3)受精:精子卵子の接着から融合に至る過程の解析は、透明帯を除去した多数の卵の必要であったり、同調化が難しかったりして、解析が困難であった。本研究では、これらの困難を克服し、受精の膜融合時に、卵子のインテグリン分子が直接精子と結合し、さらに精子結合部位へのインテグリン分子の集合や細胞骨格蛋白の凝集が誘導されることを明らかにしている。4)初期発生:受精卵を培養すると動物種や系統に特有のステージで発生がブロックされることが多い。培養液からリン酸を除くとブロックは解除される。私達はAKR/Nマウスにおいて2細胞期で発生がブロックされる現象を解析し、リン酸がcdc2の脱リン酸を抑え、MPFの活性化を抑制することを示した。なお、リン酸除去培地で培養した胚は正常に産子へと発育した。
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