筆者はこれまでの研究で、野外で飼育されている子豚の約60%以上に中耳炎が存在し、約50%の子豚の耳粘膜がMycoplasma hyorhinis(Mhr)に感染していること、SPFの子豚の耳腔にMhrを接種することにより高率に耳炎を再現できることを証明し、子豚の中耳炎はMhr感染による新しいマイコプラズマ性疾患であることを報告してきた。しかし、耳腔内接種は自然感染条件と大きく異なっており、より自然感染に近い接種条件での感染実験を行う必要性が感じられた。また、マイコプラズマ性中耳炎は細菌の二次感染によって増悪されることを実験的に証明することにより、野外で発生している子豚の中耳炎の発生メカニズムのほぼ全容が解明できると思われた。そこで、マイコプラズマ・フリーの11頭のSPF子豚を以下の4群に分け、感染実験を行った。備品として購入した蒸気滅菌器は、本実験で使用した器具や培地の滅菌に用いられた。1群(3頭):Mhr経鼻接種後4週間後屠殺。2群(3頭):Mhr経鼻接種3週間後にPasteurella multocida(Pm)を経鼻接種し、1週間後に屠殺。3群(3頭):Pm接種1週間後に屠殺。4群(2頭):Pmの培地を経鼻接種し、1週間後に屠殺。 その結果、Mhr経鼻接種全例に耳管炎が発生した。また、1および2群の多くの例で、中耳内滲出物の培養、凍結切片に対する酵素抗体法、あるいは超微形態観察により、耳腔内にMhrあるいはマイコプラズマ菌体を証明することが出来た。従って、Mhrの経鼻接種により耳管炎-中耳炎を再現できることが分かった。他の上部気道粘膜にもMhrが感染していたが、粘膜病変は耳腔粘膜病変に比べ軽度であり、Mhrのこれらの粘膜に対する病原性の差異が明らかになった。一方、本実験では、MhrとPmの協力作用を明らかにすることはできなかった。
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