私はこれまでに、我が国の養豚場で飼育されている豚の多くは生後早期から中耳炎に感染し、重篤な症例は内耳炎、外耳炎および髄膜脳炎へと進展すること、中耳炎の一次的原因はMycoplasma hyorhinis(Mhr)であり、口腔常在細菌の二次感染によって化膿性中耳炎や髄膜脳炎へと発展する可能性が高いことを明らかにしてきた。この仮説を証明するため、本研究では以下の2つの実験を行った。 1.鼓室内接種によるマイコプラズマ感染実験 15頭のSPF子豚をMhr接種群、培地接種群、無処置群の3群に分け、接種群では外耳より鼓室腔にカテーテルを用いてMhrあるいは培地を接種した。接種後経時的に豚を屠殺・剖検して病理および微生物学的に検索した。その結果、接種14日後をピークにMhrの増殖を伴った耳管・鼓室炎(中耳炎)が発生した。しかし、接種25日後にはMhrが耳腔からほとんど消失し、中耳炎もごく軽微となった。以上の結果から、鼓室内に接種されたMhrは単独で一過性の中耳炎を惹起することが分かった。 2.経鼻接種によるマイコプラズマ感染実験 自然界ではMhrは経気道感染しているので、豚の自然発生耳炎がMhrに起因することを証明するには経鼻接種によって耳炎が起こることを証明しなければならない。また、細菌(Pasteurella multicida)感染の影響を調べるため、11頭のSPF豚を4群に分け、Mhr、Mhr+細菌、細菌あるいは培地を経鼻接種し、28日後に屠殺・剖検した。その結果、Mhr接種によって中耳炎が高率に起こるが、細菌の単独感染では中耳炎が起こらないことが分かった。 以上により、豚の耳炎はMhr感染による新しいマイコプラズマ性疾患であることが本研究によって証明された。
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