卵殻膜を用いた有価金属の回収、および有害金属の濃縮と除去、貴金属の常温製錬やメタルロンダリング等の技術の開発と実用化を目指した研究を行い、次のような成果が得られた。 1.貴金属;Au、Pd、PtおよびRdの吸蔵能を様々な条件設定を行って調べ、さらに鉱石からの製錬を目指し、バッチ法およびカラム法による回収と精製を行った。これらは、他の動物繊維状タンパク質の吸着能と比較した。Pd(II)とPt(II)は、卵殻膜重量のおよそ25%、Au(III)は同55%という、極めて高い吸蔵能を発揮した。シアン化金(I)の吸蔵は、pH依存的に最大同重量のおよそ12%吸蔵し、繰り返し脱着が可能であった。吸蔵には分子間隙や、ペプチド結合部分のリガンド、及び側鎖部分のリガンドが複合的に関与していると考えられた。 2.有害金属;規制金属であるHg、Cd、Cr、Vおよびアクニチドを対象として実験を行った。HgおよびVがpH依存的に大量にかつ選択的に吸着、除去ができ、これらの金属の排液からの浄化が可能であることを明らかにした。Hgは酸性領域で、50mg〜70mg/g吸蔵され、Hgイオン除去の実用化が可能と考えられた。Vは多量に吸着し、火力発電所の電気集塵媒中のVの分離の可能性を示唆する、成果も得られた。アクニチドでは特にUに対する吸着性が優れており、pH5.0において20%の吸蔵能を示した。 3.一般的な遷移金属;一般的な遷移金属は、錯体形成の能力に依存する吸蔵を示し、限られたものであった。Cu(II)の吸蔵量は、卵殻膜の酸化処理により40%、還元処理により約20%増加し、これらの処理はリガンドの種類、組成の変化、立体構造の変化が起こすと考えられた。 重金属処理には、沈殿法、溶媒抽出法が主要技術であるが、卵殻膜の吸蔵能はキレート樹脂に勝り、選択性と希薄溶液からの吸蔵能力に優れているため、排液処理や金属の製錬の可能性も持ち合わせた優れた素材であることが明らかになった。一方、素材は廃棄されていたものであり、無毒、安価で枯渇しないことは、大きな特徴である。
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