研究概要 |
機械的に破壊するだけで単細胞が得られるアスパラガスを用いて、細胞密度と細胞増殖について検討した結果、低密度では増殖が非常に遅いことが判明した。さらに高密度で盛んに増殖している培養細胞の上清を低密度培養に加えると増殖が著しく促進された。この系を利用してアスパラガス葉肉細胞培養上清より細胞増殖因子2種を単離した。この因子の化学構造はアミノ酸4残基及び5残基からなるペプチドで、分子中に2残基含まれるチロシンの側鎖は硫酸エステルにより修飾されており、本物質をphytosulfokine-α,β(PSK-α,β)と名づけた。PSK-αは10^<-9>Mでアスパラガス細胞の分裂を誘導し、PSK-βは1桁生物活性が弱かった。PSKの種々の類縁体を合成することにより、生物活性の発現にはアミノ末端の3残基のアミノ酸が重要であることが明らかになった。PSKは単子葉植物のイネ、トウモロコシの培養細胞においても細胞増殖因子として存在していることも明らかにした。PSKの硫酸基に含まれるSをラジオアイソトープでラベルし、アスパラガス葉肉細胞およびイネOc株に対して結合実験を行ったところ両者とも結合能を示したが、Oc株が約10倍高いことが判明した。そこでOc株を用いて詳細に検討したところ結合部位はPSKに特異的でしかも2種存在すること、また結合部位は細胞膜画分に含まれることが明らかになった。過去の研究から単子葉と双子葉植物の増殖因子は異なる分子種であると示唆されていた。そこで双子葉植物であるヒャクニチソウの葉肉細胞を用いて増殖因子の精製を行ったところ、PSKが同定された。この結果から、PSKは植物界全体にわたって広く分布している可能性が示唆された。
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