植物は脂肪酸合成装置をプラスチドに有しここで脂肪酸を合成していることがこれまでの研究で示されている。しかし、脂肪酸合成の最初の段階を触媒する酵素、アセチルCoAカルボキシラーゼ、が細胞質にもあるので、脂肪酸合成酵素も細胞質にある可能性が出てきた。本実験は細胞質の脂肪酸合成酵素の遺伝子をとって、その存在を明らかにすることを目的とした。すでにクローン化されている酵母とヒトの酵素のホモロジーの高い部分をプライマーにえらび、PCRで遺伝子を探した。残念ながら、上記2つの生物種のホモロジーは低く、選んだプライマーでは該当する遺伝子は見つからなかった。現在の知見では真核細胞型脂肪酸合成装置を植物は持たないと推定される。しかし、今後も検討べき課題である。 植物では種子に油をためるので、種子登塾中に細胞質局在の上記酵素がどの様に変動し、脂肪酸の合成量と相関性があるかどうか調べた。油の少ないエンドウと、油の多いダイズを実験材料に選び、酵素の変動を調べた。細胞質の酵素の存在量はプラスチドの酵素にくらべ10分の1ぐらいであり、プラスチドの酵素が脂肪酸合成におもに寄与していると推論された。 この研究の途上、脂肪酸合成が光で活性化される仕組みを見つけた。光は植物特有のシグナル伝達経路を介して、アセチルCoAカルボキシラーゼを還元して活性化し、光合成と脂肪酸合成が同調する分子機構を同定した。
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