研究概要 |
幼若ホルモン(juvenile hormone:JH)による遺伝子発現の調節機構を解明し、JHレセプターを同定しクローニングすることを目標とし、JH応答性の遺伝子をクローニングし、上流域構造を解析して、JH応答配列を同定することを目的とした。ホソヘリカメムシの休眠成虫にJHを処理し、脂肪体から抽出したRNAを用いてDifferential Display法をおこなって、JHにより誘導あるいは抑制されるバンドcDNAをpick upした。これらをprobeとしてNorthern Blot分析により誘導抑制を確認し、JHによリ発現が誘導される遺伝子2つ(JI-1,JI-2)、抑制される遺伝子3つ(JR-1、JR-2、JR-3)を同定した。これらのcDNAの部分配列を解析しdata baseによるhomology検索を行なったところ、JI-2はすでに我々が別の方法でJH誘導性遺伝子として同定し構造解析した体液タンパク質storage hexamer(cyanoprotein=CP)であった。またJI-1は我々が卵黄の主成分として精製し性状の解析をすでにしていたvitellinのアミノ酸配列と一致したのでその前駆体であるvitellogenin(Vg)のcDNAと同定した。VgcDNAの全塩基配列を決定し、全アミノ酸構造を明らかにした。その結果、Vgにはfumin(酸性タンパク質分解酵素)のターゲットとなるcleavage siteが4つあることが判明した。すでに明らかにされているこの虫のVgを構成するpolypeptidesが体液中で7こ卵中で8こあることから、Vgのpost-translatioal processingにおいてcleavage siteにおけるcleavageが不完全におこった結果であることが明らかとなった。また、抑制性の遺伝子のうちJR-2,JR-3についてはhomology検索の結果相同性をもつものがなく新しい遺伝子と考えられた。一方JR-1は各種脊椎動物や昆虫からクローニングされているtransferrinに極めて高い相同性があった。全塩基配列を決定し、Northem BlotによってmRNAの変動を調べたところ、カメムシ休眠成虫にJHを処理することで発現が抑制されることを明らかにした。更に、CP(JI-2),Vg(JI-1),丁ransferrin(JR-1)については遺伝子(genome)のクローニングを行なって、各遺伝子の上流調節領域の解析を行なった。以上のようにこの研究により同じ昆虫の同じJHホルモン環境下で発現が誘導されたり、抑制されたりする複敦の遺伝子が同定され、それらを比較する新しいアプローチを今後の研究でとることができる。
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