植物細胞におけるモルフィナンアルカロイド生産の分子育種を行うために、まず、オウレン細胞の0-メチル化酵素(scoulerine 9-0-methyltransferase、norcoclaurine 6-0-methyltransferase、3'-hydroxy-N- methylcoclaurine 4'-0-methyltransferase)-cDNAを用い、植物細胞用高発現ベクターを構築した。 続いて、本発現ベクターならびにAgrobacteriumを用いた形質転換植物の作成を試み、イソキノリンアルカロイド生産植物としてハナビシソウが形質転換に優れていることを明らかとした。一方、オウレンは形質転換の効率が著しく低く、僅か2つの形質転換体を得るにとどまった。また、モデル植物としてタバコへの3種の0-メチル化酵素遺伝子の同時導入についても検討を行ない、少なくとも1クローン3種類の発現遺伝子を同時にもつ形質転換体を得た。 上記の研究によって確立した形質転換ハナビシソウ、オウレン、ならびにタバコを用いて、導入遺伝子の発現ならびにアルカロイド組成の変換を検討した。その結果、何れの植物でも導入した遺伝子が著量転写されていることを認めたが、一方、この転写産物が酵素の発現(蓄積)とは対応していないことも明らかとした。すなわち、ホスト植物が遺伝子導入した2次代謝酵素の安定発現に重要であることを初めて明らかとした。さらに、SMT遺伝子を導入したオウレン、ハナビシソウ細胞において、明らかなアルカロイド組成の変化を認めた。以上、遺伝子操作が2次代謝産物の改変に有力であることを示すとともに、モルフィナンアルカロイドの分子育種に関する種々の基盤的知見を得た。
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