細胞全膜電流の記録から、心ペースメーカー電位で活性化される新たな持続性内向き電流が記録されている。この電流はNaチャネルと異なりTTXではブロックされないが、いわゆるCa拮抗薬で抑制される。しかし、CaでなくNaで運ばれる電流であることから、これが今までに報告のない新たなイオンチャネルによることが示唆された。そこで、これを確かめる目的で本研究計画を立てた。最終的には、チャネル蛋白のクローニングを試みるが、その前提として、単一チャネルレベルでチャネルを特定することを目指した。モルモット心洞結節から自働性を示す細胞を単離し、cell-attached patch記録を行った。電流はNaイオンによって運ばれると考えられるので、ピペットには150mMNa溶液を用いた。脱分極によって数ミリ秒で活性化し、続いて不活性化するNaチャネル電流、それに、外液の二価イオンを完全に除去した際に見られるL型CaチャネルのNa電流が確認された。これらに加えて、明らかに開時間の長いチャネル電流を記録することが出来た。このチャネルは、ほぼ15pSの単一チャネルコンダクタンスを示し、-70mV以上の脱分極によって活性化し、脱分極中殆ど不活性化を示さず、ニカルジピンでブロックされた。これらの性質は、細胞全膜電流記録で記録された持続性内向き電流の性質と良く一致している。自働性を示す細胞の数が極端に少ないことと、おそらくチャネルの分布密度が少ないため、チャネルの記録は極めて困難であるが、チャネルの開閉動態を決定して論文をまとめる予定である。これらの実験と平行して、持続性内向き電流についての全細胞電流記録では、この電流がNaイオンによって運ばれること、および、モルモットのペースメーカー細胞にも存在することをPflugers Archivに論文として報告した。さらに、ラットの細胞にもこの電流が存在することを見つけている。
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