研究概要 |
臓器循環において、NOが血液から組織への酸素放出を促進させる可能性を検討する。初年度はin vitroで、仮説の是非を検討した。精製ヘモグロビンにNOを添加した場合、速やかな酸化が避けられないが、赤血球中ならば、この酸化速度は大幅に低下すると予想し、まず、赤血球中ヘモグロビンのごく一部のみ、NOヘモグロビン化した血液試料を作成した。このNOヘモグロビンの量のチェックは可視、近赤外スペクトルでは、感度と特異性において全然無理で、電子スピン共鳴(ESR)装置で行った。この血液試料の酸素分圧を変化させて、コントロールの血液との酸素親和性の差を顕微分光スペクトルシステムで、検出した。まずHbの一個のα鎖のみにNOが結合したHbを作成し、実験しなければならないが、酸化を極力避けねばならない。また、生体と同じ環境、即ち赤血球でどうなるか調べたい。ラットにこれらの問題を一気に解決してもらうことにした。このためにラットにニトログリセリンを投与し30分後、動脈から採血した。採血後、直ちに窒素ガス(5%CO_2)を流して脱酸素化を開始した。得られた酸素平衡曲線は、コントロールの血液と比較して、HbNOを含む血液は明らかに酸素の解離が増加していた。50%の酸素飽和度をあたえる酸素分圧をP_<50>としてHbの酸素親和性のめやすとしている。P_<50>のおおきいほうが酸素との親和性が、低いことになる。HbNOの濃度がたかければ、P_<50>はおおきくなった。25%の酸素飽和度をあたえる酸素分圧をP_<25>として,75%の酸素飽和度をあたえる酸素分圧をP_<75>として同様にプロットしても比例関係が得られた。プロットの傾きはP_<75><P_<50><P_<25>の順におおきかった。得られた結果は、末梢組織で酸素を放出するときに、α鎖のみにNOが結合したHbは、他のヘムに結合した酸素をより強く放出する可能性を示唆する。
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