研究概要 |
受精のメカニズムを解明する上で,卵活性化蛋白質(Egg Activating Protein,EAP)を同定することは本質的な課題である.本研究では,ハムスター精子細胞質成分を未受精卵に注入した際の卵細胞内カルシウムイオン(Ca)増加反応の誘発活性を指標にして,EAPの精製を行った.陰イオン交換クロマトグラフィーによる精子抽出物の分画で,卵細胞に一過性のCa増加を誘発する蛋白質が低濃度のKClによって単一ピークとして溶出された.この蛋白質の分子量は約20kDa,等電点は約6.5と推定された.しかしこの成分は受精時に起こる反復性Ca増加反応(Caオシレーション)は誘発しなかった.他方,Parringtonらは卵細胞にCaオシレーションを誘発する精子細胞質因子"オシリン"を精製したが,彼らの報告したcDNAの塩基配列をもとにしてRT-PCR法によりハムスター精巣mRNAからオシリンcDNAを増幅し,pCITE4(c)プラスミドに組み込み無細胞タンパク質合成系によりオシリンを合成した.しかし合成量が少なすぎるためか,卵内Ca増加反応を誘発できなかった.そこでParringtonらの報告に従って,Cibacron Blueアフイニティークロマトグラフィーによって精子抽出物からオシリンを粗精製した.この標品の注入によってハムスター,マウス卵にCaオシレーションが誘発された.このCaオシレーションはイノシトール3リン酸(IP3)受容体に対するモノクローナル抗体18A10によって阻害され,オシリンがIP3受容体を介する小胞体からのCa遊離に作用することを示唆する結果が得られた.さらにこの精製物を注入した際のCa増加の卵内空間分布を,共焦点レーザー顕微鏡で詳細に観察している.また未成熟精子とともにマウス卵内に注入して人工的に受精させ,2細胞期で母体に胚移植を行って産仔を得る実験を進めている.
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