研究概要 |
ストレス誘発情動障害におけるシグマ受容体の役割、およびシグマ受容体関連化合物の学習・記憶障害改善作用における一酸化窒素(NO)の関与について行動薬理学的および神経化学的に検討した。 1.ストレス負荷によって誘発される情動障害に対するシグマ受容体関連化合物の作用 シグマ受容体作動薬の(+)-SKF-10,047およびdextromethorphanによるストレス反応緩解作用は、SCH23390あるいは(-)-sulpirideによって拮抗された。またこれらのシグマ受容体作動薬による緩解作用は、6-OHDA前処置によって抑制された。同様な結果は、(+)-SKF-10,047またはdextromethorphanとphenytoinとの併用投与によるストレス反応緩解作用においても観察された。ストレス負荷後の脳内モノアミン量を測定したところ、側坐核におけるドパミン代謝回転が低下しており、この低下は、(+)-SKF-10,047によって緩解された。従って、(+)-SKF-10,047は、phenytoin感受性シグマ1受容体を刺激することによってストレス反応を緩解し、この緩解作用の発現にはドパミン作動性神経系の賦活化が関与していることを見い出した。 2.NO合成阻害薬による学習・記憶障害に対するシグマ受容体関連化合物の作用 NO産生阻害剤のNG-nitro-L-arginine methyl ester (L-NAME)や7-nitro indazole (7-NI)は、Y迷路における自発交替行動(短期空間認知記憶)を障害し、脳内cGMP量を減少させた。L-NAMEによる自発交替行動の障害は、NOの基質のL-arginineやcyclic GMP (cGMP)によって改善された。これらの結果より、NO合成阻害剤による学習・記憶障害は、NO/cGMP系を介するcGMPの産生低下によることを示唆した。 シグマ受容体作動薬の(+)-SKF-10,047や(+)-pentazocineは、L-NAMEや7-NIによる自発交替行動の障害を改善し、この改善作用は、シグマ受容体拮抗薬のBMY-14802やNE-100によって拮抗された。従って、(+)-SKF-10,047の改善作用は、シグマ受容体を介して発現していることを見い出した。L-NAMEによる自発交替行動の障害に対する(+)-SKF-10,047の改善作用が、NO/cGMP系に作用して発現しているかどうか調べたところ、L-NAMEによるcGMP産生低下に対して(+)-SKF-10,047は何ら影響を与えなかったので、NO/cGMP系以外の作用機序によって改善作用を発現している可能性を示唆した。
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