研究概要 |
1.ストレス負荷によって誘発される情動障害に対するニューロステロイドの作用 Dehydroepiandrosterone sulfate (DHEAS)、pregnenolone sulfate (PREGS)は、恐怖条件付けストレス反応を有意に緩解したが、強制水泳試験における無動状態には有意な作用を示さなかった。Progesterone (PROG)、5-α-pregnan-3-α-ol-20-oneは、恐怖条件付けストレス反応および無動状態に何ら影響を与えなかった。DHEASおよびPREGSによるストレス反応緩解作用は、シグマ1受容体アンタゴニストのNE-100およびシグマ1受容体アンタゴニスト様作用を有するPROGによって優位に桔抗された。従って、ニューロステロイドによる恐怖条件付けストレス反応の緩解作用は、シグマ1受容体を介して発現していることが示唆され、ニューロステロイドの中でもPROGは、シグマ1桔抗作用を有していることが確認された。 2.Phencyclidine(PCP)誘発place proference(PP)における一酸化窒素(NO)の役割 PCPを28日間連続投与したマウスにおいてPCPはPPを誘発した。Conditioningの期間中、NO合成酵素阻害薬のN^G-nitro-L-arginine methyl ester(L-NAME)をPCPと併用投与しても有意な変化は認められなかったが、PCPとL-NAMEを28日間併用投与したマウスにおいてPCP誘発PPは消失した。したがって、PCP誘発PPの獲得過程(Conditioning)でなく、PCP連続投与の間にNO系が変化し、PPが誘発されたものと示唆される。 3.Dizocilpine誘発空間認知記憶傷害に対するシグマ1受容体アゴニストの作用 NMDA受容体アンタゴニストのdezocilpineにより放射状迷路試験における作業記憶エラーと参照記憶エラー数が有意に増加し、両記憶の障害が認められた。Dizocilpineによる参照記憶傷害は、(+)-SKF10,047によって改善されたが、作業記憶傷害には影響を及ぼさなかった。Dizocilpineによる参照記憶傷害に対する(+)-SKF10,047の改善作用は、NE-100により拮抗された。(+)-SKF10,047はdizocilpineにより誘発される行動異常・摂食行動の抑制には影響を及ぼさなかった。Dizocilpineは作業記憶と参照記憶を障害したことから、NMDA受容体を介するグルタミン酸作動性神経伝達は作業記憶と参照記憶に重要な役割を果たすことが示唆され、(+)-SKF10,047はdizocilpineにより誘発される参照記憶障害のみ特異的に改善し、この改善作用はシグマ1受容体を介して発現していることが示唆された。
|