研究概要 |
気道を支配する迷走神経由来の非アドレナリン非コリン(NANC)性抑制神経伝達に関与する神経伝達物質に関して主にネコ気道平滑筋を用いて検討した。摘出ネコ末梢気道平滑筋組織の神経因性NANC弛緩は時間経過の早い第一相に、比較的時間経過の遅い第二相が引き続く二相性を示す。第一相はL-NNAやL-NAME等のNOS阻害薬により完全に消失し、NOフリーラジカルスカべンジャーであるC-PTIOやメトオキシヘモグロビン等により部分的に抑制されるのでNOフリーラジカルそのもの、そしてNO供与体により引き起こされると結論できた。NANC弛緩の第二相はα-キモトリプシンに感受性を示し、高頻度(10-20Hz)での繰り返し刺激により漸減現象を示し、この現象はVIP桔抗剤であるVIP(10-28)により著しく促進された。すなわちNANC弛緩の第二相の発現にVIPが関与することが強く示唆された。ネコ気道平滑筋におけるNANC弛緩の特徴として膜電位の変化なしに細胞内セカンドメッセンジャーを介して発生することが挙げられる。そこでNANC弛緩中のcAMPおよびcGMPをラジオイムノアッセイした。静止時における気道平滑筋のcAMPおよびcGMPの細胞内含有量はそれぞれ405.1±117.7(±SD,n=6)および16.4±3.2(±SD,n=10)fmol/mg tissueであり、NANC弛緩時にはcAMPおよびcGMPともに対照値の1.3〜1.4倍に有意に増加した。そこでPDEtypeIVおよびV阻害剤であるロリプラムとザプリナストの効果を観察した。ロリプラムはNANC弛緩の第一および第二相ともに増大し、このときcAMPの含有量を対照の1.3〜1.4倍へと増大したがcGMP含有量には効果を示さなかった。一方ザプリナストはNANC弛緩の第一相を有意に増大し、同時にcGMP含有量を対照の約1.4倍に増大した。これらの実験結果はNANC弛緩時に観察されるcAMPおよびcGMPの増加量が静止時の30〜40%であるにもかかわらず、これらのサイクリックニュークレオチドが細胞内セカンドメッセンジャーとして機能していることを示している。すなわちネコ気道のNANC弛緩には少なくとも神経伝達物質としてNO関連物質とペプチド性伝達物質であるVIPが関与し、それぞれcGMP、cAMPを介してNANC弛緩をもたらすと結論できた。
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