研究概要 |
平成8年度、サルキマーゼの精製およびクローニングを行い、その特徴およびアミノ酸一次配列がヒトキマーセと極めて類似していることを報告し(血管,20:207-210:1997)、平成9年度はサル高脂食負荷動脈硬化モデルの作製を行い、血管動脈硬化部位において、アンジオテンシン(Ang)II産生が増加し、その産生酵素であるアンジオテンシン変換酵素(ACE)およびキマーゼのmRNAも有意に上昇している事実を報告した(FEBS Lett.,412:86-90:199-7)。これらの研究をふまえ、本年度は動脈硬化病変における薬物療法の可能性について検討した。まず、カニクイサルを高脂食を負荷させる群、高脂食負荷+ACE阻害薬を投薬する群、高脂食負荷+AngII受容体拮抗薬を投薬する群、そして普通食群の4群に分類し生化学的、組織学的解析を行った。高脂食負荷群では昨年度の報告と同様に動脈硬化病変部位における有意なACEおよびキマーゼのmRNAの上昇が観察され、局所AngII産生も増加していた。ACE阻害薬投与群およびAngII受容体拮抗薬投与群では顕著な脂肪沈着抑制と血管内膜肥厚の抑制が確認された(Atherosclerosis,138:171-182:1998)。本研究に用いたACE阻害薬およびAngII受容体拮抗薬は、血液中の脂質レベルに影響せず、また血圧にも影響を与えない濃度であった。ACE阻害薬はAngIIの産生抑制以外にブラジキニンの産生増加を促すため、ACE阻害薬の機序を考える場合、2つの可能性を考慮する必要があるが、本研究ではAngII受容体拮抗薬も有意に動脈硬化病変を改善したことより、組織局所でのAngII増加が動脈硬化形成に重要であることが示唆される。また、血液中の脂質レベルや血圧に影響を与えずに動脈硬化病変を抑制する事実は、従来の抗動脈硬化薬の血液中脂質レベルを下げる療法以外に新しい機序を有する抗動脈硬化薬の開発に結びつく可能性を示唆するもので極めて意義深い。本研究の結果では、ACE阻害薬とAngII受容体拮抗薬の薬効に差異は認められなかったことより、キマーゼの動脈硬化形成に対する関与は否定的であるが、薬物自信の力価の違いも考えられるためさらなる検討が必要である。
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