研究概要 |
本年度の特筆すべき研究成果は前年度に発見した大腸がんにおけるE2F4プロトがん遺伝子エキソン内CAGリピート数のがん特異的変異に関するものである。まず米国のS.Meltzer博士らとの共同研究により,E2F4の変異がマイクロサイライト不安定性(MI^+)を示す大腸がんや胃がんのうち約38%に起きていることが確認された。更に我々は木村彰方(東京医歯大),島田隆(日本医大)両教授の支援を受け,約30例のMI^+大腸がんを解析して次のような知見を得た。 (1)E2F4の変異は顕著なMI^+表現型を示すがんにのみ60%以上見られ,特に(CAG)の減少が多い。 (2)E2F4変異を持つがんの80%以上が同時にミスマッチ修復遺伝子hMSH3のエキソン7に1塩基フレームソフト変異を起こして失活している。 多重がんの例で,これらの変異はがんの進行度に伴って出現する。 これらのMI^+がんで他のCAGリピート配列の変異は低く,E2F4の変異と随伴しない。 酵母においてMSH3の欠損は3-4塩基の変異を起こすことが知られており,以上の知見はヒトがんにおいてもMSH3の欠損が新しく発見された標的遺伝子E2F4の3塩基変異をひきおこすことを示している。これまでMI^+のがんにおいてはMSH2,MLH1などのミスマッチ修復遺伝子の欠損がTGFβII受容体などの1塩基変異を起こすことが報告されていたが,MSH3遺伝子欠損の標的は不明であった。本研究によりその標的の最初の例が発見され,しかもそれががん遺伝子にもなり得る転写調節遺伝子であったことは重要な知見である。なお,変異したE4F4遺伝子はc-mycなどの遺伝子発現を亢進させるという知見(未発表)を得ており,E2F4の変異がこれらの大腸がんの進展に促進的に作用していると考えられる。以上のほか,本研究においては頭頸部がんにおけるcycD1の過剰発現,大腸がんにおけるK-ras遺伝子の新しい活性化変異部位,腎がんにおける染色体14qの欠失,E2F4と相互作用するp107遺伝子のがん特異的異常,肝がんにおける染色体欠失,新しい肺がん抑制遺伝子候補などが発見され(何れも未発表),詳細な解析が進行中である。
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