シトクロムb5還元酵素欠損症の分子機構を理解するため次のような実験を行なった。 1.シトクロムb5還元酵素は、膜結合型と可溶型の二つの形で存在し、前者は可溶型の酵素のN-末端に25残基の疎水性領域を付加した構造となっている。このことから可溶型酵素は、膜結合型酵素から蛋白限定分解によって生じると考えられてきた。今回我々は、その生合成機構を検討するため、本酵素mRNAの5′側の構造を5′-RACE法を用いて解析し可溶型酵素を直接コードすると考えられる新たなエクソン(Exon1S)を見いだした。このエクソンは、従来知られていた膜結合型をコードする第一エクソンとそれに続く第二エクソンの間にあり、且つ第二エクソンと連結していることからalternative promoterによって生じると推測された。Exon1Sは開始コドンを含んでおらず、可溶型酵素はそれに続いく第二エクソンの開始コドンから翻訳される事によって生じると考えられる。 2.化学修飾析法の実験でシトクロムb5(b5)ヘムクレバス周囲のGlu47、Glu48、Glu52、Glu60、Asp64がb5Rの塩基性アミノ酸と相互作用すると示唆されたが、我々の部位特異的変異法による実験系では上記以外の残基が関与している事が推測された。そこで、この相互作用に関わるb5の酸性アミノ酸を同定するため、Glu41、Glu42、Asp57、Glu63、Asp70、Glu73をそれぞれAlaに変換した変異体を作製しb5Rとの反応を解析した。この結果、b5Rとの反応でKmがAsp70Alaで6倍、Glu42Alaで3倍の上昇を認めた。これらの結果より、b5に対する電子供与体であるb5Rと受容体であるシトクロムcでは異なる酸性アミノ酸残基が相互作用に関与している事が推測された。
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