研究概要 |
骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome,MDS)の病態およびその白血病化機構を解析するにあたり,MDS症例の骨髄組織を用いて検索した結果,以下の知見が得られた。 MDS症例では,正常に比較してマクロファージ系細胞が増加しているのに対し,denovoのAML症例ではマクロファージ系細胞は著明に減少していること,MDS症例では,マクロファージ系細胞の細胞質内には免疫組織化学的にtumor necrosis factor α(TNFα)が局在し,RT-PCR法による検討でTNFα遺伝子のmRNA発現増強がみられるのに対し,de novoのAMLやCMLおよび非血液疾患症例では,mRANレベルでのTNFα遺伝子発現の増強は認められなかったこと,さらに,TUNEL法による骨髄組織のアポトーシス現象の検討では,MDS症例ではde novoのAMLやCMLおよび非血液疾患症例に比較して,アポトーシスに陥っている細胞の比率が有意に高いことなどは,既に平成8年度の研究業績において報告した。今年度は,アポトーシス誘導に関与すると考えられているFas抗原およびFas-ligandについてRT-PCR法,TUNEL法および免疫組織化学的染色法によって検討した結果,MDS症例では,Fas抗原は造血細胞に,Fas-ligandは造血細胞とマクロファージ系細胞に発現の増強が認められた。これらのことより,MDS症例の骨髄では増加したマクロファージ系細胞がTNFαを産生分泌し,それを介してのFas-Fas-ligandシステムの発現増強,アポトーシス誘発促進がMDSにおける無効造血,血球減少を惹起する要因の一つとなっているものと考えられる。 以上,MDSにおける造血障害には,造血細胞のみならずマクロファージ系細胞を含む造血微小環境の異常が関与していることを明らかにした。
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