研究概要 |
これまでわれわれは、T細胞受容体(TCR)/CD3遺伝子およびlckがん遺伝子などのT細胞特異的構造遺伝子の発現が、マウスT細胞リンパ腫EL4にマウス線維芽細胞B82を融合すると抑制されることを見い出し、既にいくつかの英文論文として報告してきた。本年度は、これらの親細胞、融合雑種細胞におけるTCRαエンハンサーとlckプロモーターの活性を検討した。その結果、EL4細胞ではTCRαエンハンサー活性、lckプロモーター活性はそれぞれB82細胞の15x,3.2xであったのに対し、EL4細胞にB82細胞を融合するとその活性は1xとなり、B82細胞のレベルにまで低下した。従って、T細胞特異的構造遺伝子発現の抑制は、それらの遺伝子のエンハンサー・プロモーターがその標的になっていることが推測された。そこで、これらのエンハンサー・プロモーターに結合するいくつかの血液細胞特異的転写因子の発現を検索したところ、LEF-1,TCF-1,GATA-3,Ikaros/LyF-1,Elf-1,Fli-1,c-myb遺伝子の発現が、EL4細胞にB82細胞を融合すると著しく抑制されていることを見い出した。一方、両親細胞に発現していたCREB,Sp1,AML1,c-ets-2,E2Aの転写因子遺伝子の発現は抑制されなかった。従って、非血液細胞には血液細胞特異的な転写因子の遺伝子発現を抑制することにより、血液細胞特異的構造遺伝子の発現を抑制する機構が存在するものと推測された。これらの結果は現在、英文論文として執筆中である。また、これらの「負の制御機構」の実体を明確にすべく、ネガティブレギュレーターとして働くの可能性のあるいくつかの既知遺伝子の導入を試みたが、現在までのところ、上記転写因子遺伝子の発現を抑制する遺伝子には行き当たっていない。現在、TCRαエンハンサーをGFP(green fluorescent protein)に繋いだレポーター遺伝子をEL4細胞に導入し、GFPをT細胞特異的に強く発現する細胞を作成している。今後、この細胞にB82細胞のcDNAウイルスライブラリーを感染させ、GFPの蛍光強度か低下したクローンをFACSに選別し、そこからT細胞特異的遺伝子発現の制御に関与する未知遺伝子の単離・同定を試みていくつもりである。
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