ボルナ病ウイルス(BDV)は、神経親和性の非分節型、一本鎖、マイナス鎖のRNAをゲノムとして持つエンベロープウイルスである。これまでに、わが国のウマ、ヒツジ、ウシ、ネコといった動物にもBDVの感染が広がっていることを報告してきた。また、BDV血清抗体および末梢血単核球内BDV RNA検索により、わが国の精神分裂病や慢性疲労症候群患者では、献血者と比べ、有意に高いBDV陽性率であることを報告してきた。本研究では、ヒト脳内で病原性を示すBDVを特定化することを目的として研究を行い、以下の結果を得た。 1) 精神分裂病患者の剖検脳4例中1例の海馬、橋、小脳においてBDV RNAを検出した。正常剖検脳2例においては試みた脳の各領域でBDV RNAは検出されなかった。 2) このBDV RNA陽性であった海馬および小脳から、スナネズミ脳で一旦増殖させた後にヒトオリゴデンドログリア細胞と共培養することにより患者脳由来BDVを分離した。 3) 分裂病患者脳由来BDVの全長遺伝子配列を決定し、ウマ脳由来BDVのものと比較した。その結果、全長8.9kbの両者の相同性は約98%であった。特に、リン酸化タンパク質(p24)と糖タンパク質(gp56)のアミノ酸置換が激しかった。 4) パーキンソン病患者脳黒質のBDV RNA検索を行った。2施設からの4例と5例を試みたところ、それぞれ3例づつがBDV陽性であった。スナネズミ脳への接種により、分裂病剖検脳接種時と同様にBDVの増殖が認められた。しかし、ヒトオリゴデンドログリア細胞との共培養を行ったが、BDVの分離はできなかった。
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