研究概要 |
本研究の目的は2年間でインフルエンザウイルスの宿主域変異機構を解析し、同時にウイルス受容体(シアロ糖鎖)の研究をとおしてどのインフルエンザウイルスにも有効な抗ウイルス薬を開発する基礎を確立する事である。過去2年間において以下に述べる主要実績が得られ、本研究の目的は充分達成されたと考えられる。 1)ヒト、トリ、ブタ、ウマなどインフルエンザウイルスの主たる宿主から分離されるすべてのインフルエンザウイルスに対する共通の受容体糖鎖構造を初めて明らかにした。これらの糖鎖はウイルス感染を阻害することも見いだした。 2)インフルエンザウイルスは宿主に存在する受容体シアロ糖鎖のシアル酸分子種、結合様式による選択を受けつつ進化する。 3)2-6,2-3結合の認識はヘマグルチニン受容体結合ポケット内アミノ酸226ただ一つにより制御されており、226Leuの場合2-6、226Glnの場合2-3を認識する事が分かった。 4)シアル酸を含まない糖鎖をもつ糖脂質がヒト、トリ、ブタなどから分離されるインフルエンザA型ウイルスと結合できることを初めて見いだした。この結果は、従来のインフルエンザウイルスの受容体はシアル酸含有糖鎖であるという概念を改めるものであり、これらの糖脂質のインフルエンザウイルスに対する第2の受容体としての機能が示唆にされた。 5)シアリルラクト系糖鎖を含む高分子ポリマーは効果的に多くのインフルエンザウイルスの増殖を抑制した。この成果から、本研究の最終目標であるウイルスの変異を克服した抗インフルエンザ薬の開発が期待できる。 以上の結果は、受容体糖鎖(2-3,2-6シアリルGal-GlcNAc)およびその誘導体は、抗インフルエンザウイルス薬として開発可能であり、これらは、抗原変異を克服できる次世代のものとして応用されることが期待できる。よって、本研究の目的は充分達成されたと考えられる。
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