我々は、エンドトキシンショックの際に接着分子が生体内において果たす役割を明らかにし、その新しい治療方法を探る目的で、まず白血球接着分子CD18、そのリガンドであるICAM-1に対するモノクローナル抗体さらにL-およびP-セレクチンのリガンドとして知られるsulfatideをLPS誘発エンドトキシンショックモデルに投与してその機序の解析を試みた。抗CD18抗体投与によって、動脈圧の低下、代謝性乳酸アシドーシスおよび血清TNF活性は有意に抑制され、生存率も大幅に改善された。また、抗ICAM-1抗体は抗CD18抗体と同様、LPS誘発性ショックが阻害したが、抗CD18抗体とは異なり、血中TNF活性の上昇は全く抑制されなかった。さらに、抗CD18抗体および抗ICAM-1抗体は、TNF誘発性ショックをもほぼ完全に阻害した。これらの結果から抗CD18抗体は、TNFの産出抑制のみならず、その作用をも抑制することでエンドトキシンショックを防止していることが明らかとなった。また、抗ICAM-1抗体はTNF産生は抑制しないが、TNFの作用を抑制することでエンドトキシンショックを結果的に阻害していると考えられた。Sulfatide投与により、最高動脈圧の低下および致死率が有意に抑制され、血清TNF-α値の上昇も有意に抑制された。よってsulfatideによるエンドトキシンショックの阻害作用の一つとして、TNF-αをはじめとした炎症性メディエーターの産生抑制が考えられる。これらの結果から、エンドトキシンショックにおいて白血球の接着分子を介した血小板および血管内皮との接着は、TNFをはじめとする種々の炎症性メディエーターの産生制御、ならびにTNFにおいてはその作用の発現に、深く関与していることが明らかとなった。同時にこの事は、これら接着分子を標的とすることによるエンドトキシンショックに対する新しい治療方法の可能性を示唆することができた。 一方、我々は慢性炎症性疾患におけるMCAF/MCP-1の作用を明らかにするために、ラットを用いた腎炎並びに肺高血圧症モデルを作製し、これらのモデルに抗MCAF/MCP-1抗体を投与して、病態生理作用を解析した。抗基底膜抗体を投与して作製した、Goodpasture型腎炎モデルにおいては、早期にマクロファージの浸潤を伴った増殖壊死性の糸球体腎炎を引き起こし、後期には糸球体硬化症が認められ、蛋白尿やクレアチニンクリアランスの上昇がみられ、腎不全の病態を呈する。このモデルにおいて抗基底膜抗体を投与と同時に抗MCAF/MCP-1抗体を投与すると蛋白尿を抑制し、後期にみられる腎硬化症も著明に抑制した。さらに、植物アルカロイドであるモノクロタリンをラット皮下に投与して作製した肺高血圧症モデルでは、抗MCAF/MCP-1抗体の投与によりマクロファージの浸潤を抑制することで肺細動脈の中膜の肥厚を抑制し、結果的に肺高血圧症を抑制した。これらのことから、MCAF/MCP-1が慢性炎症におけるマクロファージの浸潤とそれによる病態の悪化に重要な役割を担っていることが明らかとなった。
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