T細胞の自己寛容(トレランス)は免疫系が自己抗原に反応しないことを保証するために重要な現象である。そのメカニズムが崩れることは様々な自己免疫疾患などの誘導につながる。本研究においては新たに開発したモデル動物系を用い、末梢における自己寛容のメカニズムを細胞免疫学的、分子生物学的に解析することを目的として研究を進めた。オス特異的なHY抗原を認識するT細胞受容体を発現するHY-rag-2^<-/->マウスやHY-rag-2^<-/->-1prマウスのメス由来の末梢T細胞をオスのB6-Ly5.2-rag-2^<-/->マウスに静注し、経時的にレシピエントマウスのドナー由来の末梢T細胞を解析した。細胞数はレシピエントの体内で一時的に増加し、HY-rag-2^<-/->のメス由来の末梢T細胞を用いた場合には細胞数はその後減少し、検出限界以下になってしまった。一方、1pr変異を持つマウスのメス由来の末梢T細胞を用いた場合には予想どうりFas/Fasリガンドによる細胞死がないために細胞数の減少は見られなかった。しかし、細胞数は静注後1週間ぐらいから定常状態になりそれ以上に増加しなくなった。ドナー細胞数が減少しないためこのマウスからは10^7単位のドナー由来T細胞を回収することが可能であった。このような細胞は抗原に対する反応性を失っているが、細胞を再びメスに戻して、しばらくすると反応性が回復する。今後、レシピエントマウス中に増加してくる無反応状態にある細胞を取り出し、フローサイトメトリーによる表面抗原の解析やTCRを介したシグナル伝達を特にCD3ζのリン酸化状態やMAPキナーゼ経路の活性化状態などに注目して検討する予定である。
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