化学物質の安全性評価を行う上で、より的確な安全基準値を設定するために、薬物動態モデルによるヒト体内の薬物動態および奏効部位における薬物濃度の推定の利用が可能かどうか検討を行った。化学物質としては、発癌性が強いこと、含有量が非常に多い食品が存在することなどの理由から、近年その安全性評価が大きな問題となってきているアフラトキシンB_1(AFB_1)を選んだ。薬物動態モデルとしては、血液、血行が豊富な臓器(脳、副腎、骨髄など)、血行が乏しい臓器(骨、脂肪組織など)、腎臓、肝臓、消化管の計6つのコンパートメントを想定した。また、AFB_1の代謝物としては、相互に変化し得、毒性も高いとされているアフラトキシコール(AFL)について考慮し、それについても6つのコンパーメントを想定した。ラットでは、AFB_1投与後最も濃度が高くなる臓器はAFB_1、AFLとも肝臓であり、肝臓中のAFB_1濃度は、血液を除く他の臓器中濃度の約2.5から13倍程度になるものと推定された。また、最も濃度が高くなるのは、各臓器とも投与後約3時間と推定された。AFLの動態相はAFB_1よりも遅れるものと推定され、最高濃度になるのは、投与後18から24時間と算出された。ヒトについてのAFB_1及びAFLの体内動態では両物質ともに肝臓が最も高濃度を示し、最高濃度に達するのは、各臓器ともAFB_1で投与後約2時間、AFLで投与後3時間前後と推定された。血液、肝臓、腎臓それぞれについて、AFB_1とAFLの濃度推定曲線を比較すると、AFB_1では各臓器とも最高濃度はラットが高いが、排泄される時間はヒトの方が遅かった。従って、AFB_1の「濃度×時間」はヒトの方がやや大きいと推定された。AFLについては、ラットとヒトの代謝の違いは比較的大きく、各臓器の最高濃度「濃度×時間)ともヒトの方がラットよりも高いものと推定された。今後、いくつかの臓器における濃度の投与後変化に関する実験データをさらに入手し、モデルの信頼性を高めていく必要性があると思われる。
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