研究概要 |
ほとんどの癌は環境中の発癌物質の摂取によっておこると考えられる。食道の偏平上皮癌は、喫煙とアルコール摂取が関連していると疫学的に報告されている。生体中にはこれらを代謝する酵素系があり、その強弱が食道癌発症に影響している可能性がある。これらの酵素系の強弱を簡便に調べる方法として、各酵素遺伝子の制限酵素断片の多型性を解析する方法がある。そこで我々は、これらの代謝に関係する酵素遺伝子として、CYPIA1,GSTM1,CYPIIE1,ADH2とALDH2を調べた。対象としては、94人の日本人食道癌患者と70人の健常日本人であり、血液からDNAを抽出した。方法としては、各々の遺伝子に特異的な多型性を制限酵素切断とゲル電気動により決定した。その結果、CYPIA1,GSTM1,CYPIIE1の遺伝子の多型性は、食道癌患者と健常人で違いを示さなかった。一方、ADH2とALDH2の多型性は両者で違いを示した。すなわちADH2^1/ADH2^1遺伝子型、およびALDH2^1/ALDH2^2遺伝子型が、各々食道癌で有意さをもって正常人より多かった。ADH2^1型はアルコールからアセトアルデヒドへの代謝活性が低い。また、ALDH2^1/ALDH2^2型はアセドアルデヒドから酢酸への代謝が中程度で、そう高くない。以上からアルコールの代謝が遅い人は、食道癌のリスクが高いことが示唆された。
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