研究概要 |
本研究費により明らかにせんとしたことは、多量飲酒による循環器障害とくに血圧の上昇と大腿骨骨頭壊死にかかわる機序解明を目指したことにある。 多量長期飲酒者における障害として肝障害は周知であるが腎への影響の指摘は皆無に等しい。しかし血圧の変動や骨の代謝には腎が大きくかかわっている。 申請者らはラットを用いて、エタノールの投与を投与開始時期および期間を何段階にも組み合わせた条件で、系統的観察を実施した結果、組織学的に肝よりも腎に早期に変化所見が多く観察されることを1982年に報告した。その後腎機能に関する生化学的指標に有意の変動のあることも検証した。 本研究費による研究では、(1)ラットに長期間継続的に飲酒させ、断酒後、血中、尿中、腎中における遊離及至弱い結合(Free)(F)、強固な結合型(Bound)(B)のEthanol(Et)量およびAcetaldehyde(AcAld)量を測定すること。また、この時の腎組織、肝組織を観察すること。(2)男子多量長期飲酒者の断酒後の赤血球中、尿中の遊離型、結合型のEtおよびAcAld量の測定。腎機能に関連し、かつ血圧、骨代謝、赤血球生成にかかわる指標として、renin、angiotensin I、angiotens in II、angiotensin converting enzyme(ACE)、1α,25(OH)_2D_3、24,25(OH)_2D_3、erythropoietin、その他。肝機能に関連してTG、UA、GOT、GPT、γ-GTP、LPO、GRENを観察した。ACE genotype、ALDH2 genotypeも観察した。 観察の結果 ラットに17ヶ月間エタノール投与後、断酒して48時間、96時間において腎臓中にEtおよびAcAldの蛋白結合体が存在すること、腎組織所見としてAcAld蛋白結合体が抗原として産生されたと考えられる抗体・免疫複合物が腎糸球体内PAS陽性物質として沈着が認められ、その結果と見られる糸球体腫瘍、基底膜肥厚、メサンギウム細胞増殖、傍糸球体細胞の増殖等、膜性腎炎様変化として観察された。尿細管についても上皮細胞腫脹、脱落、硝子様滴、間質への細胞浸潤、塩基性尿細管が観察された。 多量長期飲酒者群の2ヶ月以上断酒者において、赤血球中のF-AcAld、B-AcAldはいずれも少量飲酒対照群の約2〜3倍が存在し、renin活性、ACE活性、angiot ensin I、II、1α,25(OH)_2D_3、erythropoietinの全指標において多量長期飲酒者群に有意に高値を示した。 肝機能指標には特に著変は見られなかった。 以上より、多量長期飲酒による腎を中心とした影響は大きく、renin活性の高いこと、とくにACE II型であってALDH2 NN型の者には特設に高値で、angiot ensin I、II高値につながり血圧上昇をもたらすことや骨端の栄養血管の収縮にも関与することなどが推定される。1α,25(OH)_2D_3の変動は骨粗鬆など骨吸収にも関与するものであり、飲酒による高血圧、骨障害の機序解明の重要なうらずけが出来たものと考える。
|