研究概要 |
本年度は,前年度に引き続き,胎生期メチル水銀への微量長期曝露(0,0.3,1.0mgHg/kg/dayを胎生期8〜17日の連日投与)マウスを作成し,複数の行動機能への曝露の影響を比較するとともに,微小透析による神経伝達機能への影響を評価することを目的とした.行動試験については,前年度条件検討した胎児期曝露マウスが4〜5週齢に達した時点でビームバランス試験(平衡感覚ー運動機能試験)を,8週齢で放射状迷路試験を実施した.その結果,両試験ともメチル水銀による顕著な影響を認めなかった.すでに確立したマウスでの微小透析を海馬に応用し,胎生期曝露動物の成熟後(約10カ月齢)におけるグルタミン酸の細胞外濃度および高カリウム脱分極刺激への反応を検討した.その結果,グルタミン酸の無刺激時細胞外濃度には差がなく,脱分極刺激に対しては,対照群で5/8が,メチル水銀曝露群で5/6がそれぞれ無刺激時に対し20%以上のグルタミン酸濃度の上昇を示し,残りの個体は反応しなかった.これは脱分極刺激に対するグルタミン酸濃度の反応として知られていることと一致していた.群平均値として見ると,脱分極刺激におけるグルタミン酸濃度の上昇率は,メチル水銀曝露群でより高い傾向にあった.メチル水銀の効果としては有意ではなかったものの,培養グリア細胞で急性影響として報告されているグルタミン酸取り込みの阻害が,この減少にも寄与している可能性があると考えられた.投与量の小さいこと,投与から長い期間を経てこの結果を得たことを考えると,海馬グルタミン酸系伝達への影響はさらなる解析に値するものと思われた.
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