研究概要 |
本研究では,メチル水銀への胎児期長期微量曝露が出生後の神経行動機能に及ぼす影響について,ヒトにおけるリスク評価の基盤となる情報をもたらすことを目的に,マウスを用いた実験を行なった.以下は本研究で得られた知見をヒトのリスク評価という観点から再整理した. 1) オープンフィールド試験は,胎児期メチル水銀曝露の長期影響を一貫して検出することができ,放射状迷路・平均台試験より感度が高く,動物実験における影響の検出系として優れていると考えられた.今後,オープンフィールド行動への影響をさらに行動学的に解析し,あるいは神経化学的機序を検討することにより,そのhuman equivalentを検索することが望まれる.一方では,学習および運動機能についてさらに感度のよい試験法を検索していくことも必要であろう. 2) 海馬の細胞外グルタミン酸濃度を微小透析によって検討することにより,この系にメチル水銀の影響が認められ,その影響はin vitroで示唆されたようなグルタミン酸取込み機構の阻害と矛盾しなかった.投与量の小ささ,投与後の時間経過の長さを考えると,この系はメチル水銀の影響に敏感であると推測された.今後,この神経生理学的な影響を発達に沿って経時的に追跡すること,またこの影響がどのような行動機能の変化を導くのか検討することが必要である.無論,他の脳部位,他の神経伝達系についても比較可能な形での検討も有用である. 3) 胎児期メチル水銀毒性の発現機序として,酸化ストレス・甲状腺ホルモン環境の撹乱いずれについても関与が示唆された.酸化ストレスについてはグルタチオン代謝への影響を中心に,甲状腺ホルモンについては胎児脳組織でのホルモンレベルを中心に,投与量・観察時期を変えて検討するとともに,これらの要因が何を介して脳機能の障害と結びついていくのか,mechanisticな検討が必要である.
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