研究概要 |
本年度はALDH2 promoter領域中に、強力な転写活性を示すMAZが結合するcis-elementに新たな多型性変異を見い出したので、健常人とアルコール性肝障害との対照研究を行った。 アルコール性肝障害の診断基準に基づき診断された男性患者40名(肝線維症、肝硬変、肝炎)および健常者66名の血液から抽出したDNA試料を用いた。ALDH2geneの5′末端上流は約600bpの塩基配列がHsu et al.(1988)により報告されている。この領域を約300bpずつ上流と下流に分け、PCR増幅したものをDNA Sequencer(ALFexpress,Pharmacia)によりSSCP分析した。検出された変異型はすべてGenetic analyzer(ABI,310)にて塩基配列を決定した。健常者集団では-375G→Aの置換が多型として検出されたほか、稀な変異として-530C→Tが検出された。このほかHsu et al.の報告と異なる配列として-539G→Tの置換および-345Cと-346Cの間のG insertionが全例に見い出された。遺伝子頻度は健常群ではGG:39(59.1%),GA:22(33.3%),AA:5(7.6%)であるのに対し、アルコール性肝障害ではGG:7(17.5%),GA:32(80,0%),AA:1(2.5%)となり、アルコール性肝障害においてはA型変異が有意に高かった(X^2=6.78,p<0.001)。この-375G→A変異はSp1より更に強力な転写活性をもつMAZが結合するcis-element中に生じた塩基配列(GGGGAGG→GGGAAGG)であるので、転写活性に何らかの影響を及ぼし、ひいてはALDH2活性の低下につながる可能性がある。ALDH2gene転写制御領域中に見い出された変異のうちMAZbinding cis-element中の-375G→Aの変異はアルコール性肝障害に健常人より有意に高い頻度で検出されたが、今後更に精細な検討を重ねることにより、アルコール性肝障害に関与するcandidate geneのひとつとなる可能性がある。
|