マイクロコンピューターを用いた重心動揺(周波数分析を含む)および眼振解折システムを確立し、これらを用いて有機溶剤、鉛、飲酒等の有害因子により、身体平衡機能に関わる小脳、前庭および深部知覚系のいずれが早期に傷害されるかを明らかにすることを目的として研究を行った。重心動揺は、増加している周波数成分により、前庭小脳型(非特異的、開眼時)、小脳前葉型(2-4Hz、閉眼時)、および深部知覚型(1Hz以下、開眼時)に区別した。以下の知見が得られた.(1)鉛作業者における調査では、重心動揺の高周波数(2-4Hz)および低周波数(1Hz以下)成分が開閉眼時に増加し、前庭小脳、小脳前葉および深部知覚系の障害が示唆された。さらに、前庭-小脳系は現在の鉛暴露レベルが、一方、小脳前葉は過去鉛暴露が影響するこどが推定された。(2)n-ヘキサン、キシレンを含む混合有機溶剤暴露作業者で、重心動揺の高周波数(2-4Hz)の成分が開眼時に増加し、この影響がn-ヘキサンによると示唆された。さらに、キシレンはこの影響に拮抗すると椎定された。(3)東京地下鉄サリン事件患者で、事件の6〜8ヶ月後に、重心動揺の低周波数(1Hz以下)成分が開眼時に増加し、かつ中毒直後の血清コリンエステラーゼ値と有意な相関があった。これよりサリン中毒による前庭小脳系への長期影響が示唆された。これらの成果をまとめて論文発表を行った。
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