研究概要 |
動脈硬化では、細動脈平滑筋の増殖や血管内皮の肥厚などの変化がみられる。この動脈硬化の最初のスッテプとしてマクロファージの血管内皮への接着分子を介した接着やサイトカインの放出が注目されている。振動障害でも細動脈の平滑筋の増殖や血管内皮の肥厚がみられ、振動刺激による末梢循環障害も動脈硬化の発生と似た機序で起こるのではないかと考え次のような仮説をたてた。振動刺激により血管内皮や白血球が活性化し、サイトカインが放出される。このサイトカインの働きによって、接着分子が発現され、マクロファージの血管内皮への接着分子を介した接着が生じ、さらにサイトカイン等の放出により、血管内皮が肥厚し、末梢循環障害がおこるという仮説です。振動刺激によって血管内皮の肥厚が引き起こされるという機序に、サイトカイン(TNF-α,IL-1α)接着分子(ICAM,VCAM)が関与することを振動曝露前後の血中濃度変化の測定により調べた。対象は健康な学生11名(男子6名、女子5名、年齢22-24歳)とした。振動曝露実験振動発生装置を用いて、100HZの正弦波を十分間与えた。姿勢は座位とし、工具のグリップを右手でしっかり握って、振動を暴露した。振動曝露前と曝露後2時間、4時間の血清を採血した。血清中のサイトカインと接着分子は、いずれもサンドイッチELISA法により測定を行った。コントロール群と、振動曝露群の群内で有意差のみられる変化があるかどうかを検定した。接着分子、炎症性サイトカイン共に有意差はみられず、今回の実験からは、振動曝露との関連は見いだすことができなかった。今回の測定した接着分子の正常者の血清中濃度は、過去の研究者が求めた正常者の濃度とほぼ一致するため、実験手技自体は正確であったと思われた。今後振動の強さを変えてみたり、振動曝露時間を長くするなどして様々な条件の下で実験を行う必要があると考えられた。
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