本研究の目的は、痴呆症の早期発見のために用いることが有用な検査方法の妥当性を検討することである。日常生活に支障のない地域在住の一般高齢者で、本調査の趣旨に同意を得た222名(男性71名、女性151名)を対象に次の調査を実施した。対象者の平均年齢は、男性が72.9歳、女性が69.6歳であった。調査項目は、問診(既往歴、ライフスタイルなど)、身体計測(肥満度など)、血圧、血液生化学検査13項目、ApoEフェノタイプ、骨密度、高次脳機能検査(ミニ・メンタルテストMMS、Raven色彩マトリックス検査(RCPM)、仮名ひろいテストなど)、体力指標(握力、大腿四頭筋筋力、柔軟性、敏捷性、手指先運動、全身反応、平衡能力など)である。 従来から痴呆症のスクリーニング検査として知られているMMS検査の本集団における得点は、全員が20点以上(平均値は26.8点)であり、本研究対象者は、通常のMMSによるスクリーニング検査では痴呆症要精検者としては検出される可能性の少ない者であった。 近年、Apolipoprotein E4 alleleを有する者は、遅発型のアルツハイマー痴呆に早期に高率に羅患するとの報告がされている。対象者のうち、ApoE遺伝子解析が可能あった者は、95名(男性56、女性39)であった。ApoEフェノタイプの頻度分布は、E2/2型が1名(1.1%)、E2/3型が7名(7.4%)、E2/4型が1名(1.1%)、E3/3型が71名(74.7%)、E3/4型が13名(13.7%)、E4/4型が2名(2.1%)であった。E2/2型とE2/3型をE2、E3/3型をE3、E2/4型、E3/4型、E4/4型をE4と分類し、性別に各検査値との関連を比較した。E3群とE4群で有意(p<0.1)な差が認められた項目は、体重、拡張期血圧、手指先運動能、血液検査項目(血小板数、総コレステロール、遊離脂肪酸)であった。これらの検査項目は、早期痴呆の検出に関連している可能性が示唆された。
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