一昨年、世界保健機構(WHO)の下部組織である国際癌研究期間(IARC)が、ヘリコバクター・ピロリ(HP)を明らかに発癌と関わりのあるdefinite carcinogenに指定した。通常、WHOのGroup1に分類されるためには、疫学的成績に加えて実験的裏付けのデータがないと認定されない傾向にあったが、HPの場合は疫学的成績のみで評価されたことになる。これまでHP抗体陽性率と胃癌の関わりについて意見が分かれていたが、対象に腸上皮化生の広がりの大きな進行胃癌を多数含んでいたために、このような解離が生じた可能性が高いことが、本年度の研究により明らかになってきた。したがって、HP感染から始まり、慢性胃炎、慢性萎縮性胃炎、腸上皮化生、早期胃癌を経て進行癌に至る胃癌の自然史の流れが急速に解明されてきたと思われる。また、前癌状態といわれた腸上皮化生が密接にHP感染と関連していたことを実証できたことは、これからのHPと胃癌の関わりを検討していく上で重要なことであると思われる。もちろん、胃癌の発生はHP感染のみですべて説明可能という訳ではなく、食事、環境など多数の要因が入り組んで引き起こされると考えられるが、消化性潰瘍の再発と同様に、HPの除菌により胃癌の発生が予防できる可能性も示唆される。 本年度の研究のうち、基礎的部門では、HP感染により胃粘膜には炎症性サイトカインのうち、特にIL-8が誘導され、好中球を持続的に呼び寄せ炎症を継続させることが明らかになった。また、HPの菌種のうちcagA gene陽性株は、胃粘膜の炎症をより強く惹起させることも明らかになった。
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