Helicobacter pylori(H.pylori)は1983年オーストラリアのMarshallらによってヒト胃粘膜より発見されたグラム陰性の細菌であり、その後の研究により、本菌と胃炎、消化性潰瘍との関わりが、明らかになってきている。本菌を経口摂取すると数日後に上腹部痛が生じ、内視鏡で観察すると急性胃炎の所見が認められることが証明されている。また、本菌がそのまま持続感染を継続していくと萎縮性胃炎や一部は腸上皮化生に至り分化型の胃癌を引き起こす可能性が高いことが明らかになってきた。 しかし、最も重要なH.pyloriの細胞障害性の本態とその菌種による毒性の相違につ“Slow bacterial infection"といわれているH.pyloriの細胞障害性について種々のサイトカインやその遺伝子レベルでの検討がこれまで不十分であったため、本年度はこの分野の研究を行った。これまでの研究では、H.pyloriの毒性は本菌の産生する高いウレアーゼ活性に基づいて発生するアンモニアによるものと解釈されてきた。われわれのin vitroにおけるデータもそれを支持するものであった。 最近になって、本菌の主たる細胞障害作用は、本菌の感染によって胃粘膜に誘導される白血球やサイトカインとの関わっていることが強調されるようになってきた。確かに、H.pyloriの誘導する白血球浸潤とサイトカインの関わりについては興味は持たれているが、十分な因果関係は証明されていない。われわれの研究によって種々の胃疾患の胃粘膜においてIL-6、TNF-aなどの炎症性サイトカインのみならず、IL-8など白血球浸潤と関わりのあるケモカインとも密接な関わりが示唆された。
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