研究概要 |
1. 対象および方法:SPF優性スナネズミ(MGS/Sea:5週齢、30-40g)にH.pylori標準株(ATCC43504:10^9CFU)を経口接種後、標準食(Oriental Yeast)と自由飲水にて飼育し、H.pylori持続感染による胃粘膜の経時的な変化をコントロール群と比較検討した。 (1)H.pylori持続感染の確認:H.pylori接種後、本菌の持続感染はELISA法による抗HP-IgG抗体価の測定や、摘出された胃の組織学的鏡顕法(モノクロナール抗体を用いた免疫染色およびギムザ染色)によって確認された。(2)H.pylori感染後の変化:感染後1,2,3,6,12,18ヶ月後に各群から5匹屠殺し、血清を採取し後10%中性ホルマリンで固定した。全割標本を作成し、胃粘膜の組織学的変化を検討した(HE,Giemsa,PAS,Alcian blue染色)。 2. 結果:H.pylori接種1ヶ月後には前庭部胃粘膜固有層および粘膜下層に好中球およびリンパ球を主体とした炎症細胞浸潤を認め、胃粘膜は著明な肥厚を認めた。これらの変化は経時的に増強し、2ヶ月後では粘膜下層にリンパろ胞が出現し、3ヶ月後には拡張した腺管が粘膜下層へと侵入する所見を認めた。6ヶ月後には胃粘膜の萎縮性変化およびgoblet cell metaplasiaを認め、幽門腺と胃底腺の境界部に胃潰瘍の発生を認めた。12ヶ月後には肉眼的にも胃粘膜の肥厚や表面の凹凸不整像を認め、組織学的にはhyperplasiaあるいはdysplasiaの所見を呈した。この間、腸上皮化生やdysplasiaの程度や頻度は増強し、18ヶ月後には5匹中2匹に計3個の高分化型腺癌の発生を認めた。今回、H.pylori感染後にスナネズミの胃にみられた一連の変化は、現在までにヒトで報告されている連続的な胃粘膜の組織学的変化ときわめて類似している。これらの組織学的変化は、コントロール群においては全経過を通じて認められなかった。 3. まとめ:以上の結果から、スナネズミを用いたH.pyloriの長期持続感染実験において胃癌が発生することが示され、今後の胃癌発生機序の解明のための有用なモデルが確立された。
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