研究概要 |
我々は、消化管粘膜における増殖因子の意義を検討しているが,最近ではヒトの正常胃液中にも,強い細胞増殖因子の活性が維持されており粘膜障害時に生理的役割を有する可能性を見いだしている.本研究では,このほかにも,センスアンチセンスペプチドの概念から,増殖因子受容体を具体的なターゲットとし,蛋白の構造を変化させることによりその生物活性を変化させるペプチドの作成法を追求した.アンチセンスペプチド設計プログラムを改良し,分子内のHomology Boxを利用した分析および,受容体とリガンドの活性部位をターゲットにしてコンピュータ解析を行なった.その結果から増殖因子と受容体の結合を変化させ,増殖活性を増減する可能性のあるペプチドPSGTARTKLLL,LAALCAAGGALEEKKV,LYENTYALAVLSNYG,DSLSINA,NGIGIGE,DPRELEILKTVKEITGFLLI,LHILPVAFKGDSFTRTPP,VERIPLENLQIIRGNALY,RGRTKQHGQFSLAVVGLN,HNQSAAGSTGPRESDAL,LVWKFADANNVAHLSHA,QYYLESIRVLERVKYIR,YVVTDHGSAVRASG,LRSLKEISDGDVI,QITKLLDGTSIYYを合成した.胃粘膜上皮細胞の培養系であるRGM1がEGFにより用量依存的にDNA合成が増加することから,その生物活性にあたえるペプチドの影響を検討した.また,一部では,EGFがラット初代肝細胞培養系の細胞内カルシウム濃度を上昇させることから,細胞内カルシウム濃度上昇活性に及ぼすペプチドの影響を検討した.EGF(2nM)はRGM1のDNA合成能を約5倍増強させたが,PSGTARTKLLL,LAALCAAGGALEEKKV,LYENTYALAVLSNYG,DSLSINA,NGIGIGEの各ペプチドは0.02nM,0.2nM,2nM,20nM,200nM,2000nMの濃度でDNA合成能,細胞内カルシウム濃度上昇活性に著明な変化を認めなかった.DPRELEILKTVKEITGFLLIはEGFの細胞増殖活性を約2倍に増強する結果(p<0.03)を得た.その他のペプチドについては,活性の詳細を判定中である.また,今後エンドセリン1の阻害ペプチド(Nature Med 1:894・901,1995)で行なったごとく,ペプチドの前後に数個のアミノ酸を追加し,活性の増強効果をみる必要があると考えられる.
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