研究概要 |
(1) 肝性脳症診断用コンピュータシステムの開発検討 新たに開発したコンピュータシステムによる定量的精神神経機能検査(8種類)を施行し、対照と肝硬変につき比較した。その結果、健常者でも加齢により成績は低下することから、年齢別の正常値を設定し、肝硬変と比較した。肝硬変のなかで正常値以下の例があり、潜在性肝性脳症としてふるい分けることが可能と考えられた (2) ポジトロン断層法を用いた脳内糖代謝の検討 肝硬変症例を潜在性肝性脳症(11例)と非潜在性肝性脳症(5例)に分け、脳内各部位の2-(^<18>F)-fluoro-2-deoxy-D-glucoseを用いたポジトロン断層法による糖代謝量を比較した。脳内糖代謝量(mg/min/100g)は対照(6.8±0.3)に比し、非潜在性肝性脳症(6.2±1.4)では低下がないが、潜在性肝性脳症(3.8±0.5)では低下し、前頭葉、側頭葉、後頭葉、大脳基底核で有意(p<0.05)であった。脳内糖代謝量はWAIS成人知能検査の積木検査(r=0.448,p=0.082)、符号検査(r=0.587,p<0.05)と相関し、精神神経機能に脳内ブドウ糖代謝量が関与していると考えられた。 (3) 磁気共鳴画像(MRI)と磁気共鳴分析法(MRS)を用いた脳内物質代謝の検討 顕性脳症のない肝硬変30例と健常者5例にMRIとMRSを施行し、淡蒼球信号強度とglutaminic,myoinositolの信号強度を測定し肝の重症度、血液アンモニアとの関連を検討した。その結果、顕性脳症のない肝硬変でも顕性脳症と同様に異常者に比し、MRIで淡蒼球信号強度は高値(118±11%,p<0.01)で、血液マンガン濃度と正の相関(p<0.01)がみられた。MRSではglutamine高値(30.4±9.7%,p<0.05)、myoinositol低値(27.7±12.7%,p<0.05)を認め、血液アンモニアとmyoinositolとは有意の負の相関(p<0.01)を、グルタミンとは有意の正の相関(p<0.01)を認めた。また肝の重症度の進行に伴いmyoinositolは減少、淡蒼球信号強度とglutamineは増加した。従って、肝性脳症でみられる脳内物質代謝異常は顕性脳症のない肝硬変でも認め、肝の重症度、血液アンモニアおよびマンガンなどを反映すると考えられた。 (4) 潜在性肝性脳症の病態と予後 脳症のない非アルコール性肝硬変22例に、精神神経機能検査(WAIS成人知能検査の積木・符号検査)と電気生理学的検査(聴覚誘発電位、脳波成分分析)により、潜在性肝性脳症の有病率と顕性化率を検討した。その結果、有病率は肝硬変症の60&前後と推定された。顕性化率は初回診断時より12カ月以内で約40%であった。今後、コンピュータシステムによる定量的精神神経機能検査により潜在性肝性脳症のスクリーニングを行い、病態の解析がさらに必要である。
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