研究概要 |
イノシトールリン脂質代謝は細胞内情報伝達機構の中で極めて重要な働きをしている。ヒト脳におけるPLCの分子特性について、分子量ならびに荷電を分離モードとした分画手法により解析した。前者にはSuperdex pgカラムを用いるゲルカラムクロマトグラフィーを、また、後者ではMono Pカラムを用いるクロマトフォーカシングを行った。この結果より、ヒト脳可溶性成分には、PLC-β1,-γ1,-δ1のアイソザイムが存在すること、特にPLC-γ1,-δ1が主であることが判明した。ゲルカラムクロマトグラフィーからの解析結果より、アルツハイマー病(AD)脳では正常対照脳に比べ、PLC-γ1分画酵素活性が低下し、PLC-δ1分画酵素活性が増大していることが判明した。 ADにおけるPLC-δ1遺伝子異常の有無についてPCR産物の直接シークエンス法により検討した。白血球から抽出したゲノムDNAを用い、PLC-δ1エクソン2-15のシークエンス解析ならびに全サンプルについてエクソン3のRFLP解析をした。早期発症型AD1症例においてArg105→His(CGC→CAC)の変異を認めた。RFLP解析によりこの変異は多型ではなくまれな突然変異であることが明らかになった。この変異は、PIP2やIP3が結合し、基質の認識と解離に関わる重要な機能を担っているpleckstrin homology (PH) domainに位置していた。変異型蛋白質を大腸菌に発現させて検討した。Arg105→Hisのアミノ酸置換を持つPLC-δ1分子のPIP2加水分解能およびIP3結合能は、野生型に比べともに有意に減少することがわかり、変異がPLC-δ1分子の機能障害をもたらしている可能性が示唆された。この変異とAD発症の因果関係は明らかではないが、変異により機能障害を来すことが判明した。
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