研究概要 |
血管内皮細胞は,血流のパターンを反映して自らの形態や機能を変化させる性質をもつことが知られており,アテローム性動脈硬化症の発生は血管内皮細胞の形態,機能の変化と深く関わっていると考えられる。本年度は,主としてアルブミンをトレーサとして用い,血管壁の物質透過率を求め,同じ部位で血管内皮細胞の形状および配向性を計測して血流パターンを推測し,両者の関連性について検討した. 1.血管各部位での透過率:Wister系雄性ラットを用い,頸動脈よりトレーサ(FITC-albumin)を注入し灌流した.測定部位は上行大動脈が腕頭動脈と分岐する直前の部位,左鎖骨下動脈との分岐部直後の大動脈弓部および左鎖骨下動脈との分岐点から約2.5cm下流の下行大動脈のそれぞれの内側と外側で,合計6部位とした.上行大動脈の外側では分岐直後と胸部大動脈に比べて統計学的に有意に大きい値を示した.また,弓部内側も有意差こそ認められなかったものの弓部外側および下行大動脈と比べて高い透過性を示した. 2.血管内皮細胞の形態解析:大動脈を10%ホルマリンで加圧固定した後,摘出し0.25%硫酸銀中に5分間浸し内皮細胞の間隙を染色した.細胞の形態解析においては,細胞の形状を表わすShape Indexと細胞が血管の軸方向となす角度である配向角の2つのパラメータを計測した.分岐前と分岐直後の内側の細胞のShape Index値は大きく,細胞はそれほど伸長していなかった.それに対し,外側の細胞は比較的伸長していた.血管内皮細胞の配向性については,上行大動脈では細胞の配向が血管軸の方向から大きくずれているが,その他の大動脈弓部および下行大動脈では,血管軸方向に配向した細胞が多く見られた. 3.以上の結果から,上行大動脈は他の部位と比べて有意に高い透過率を示し,細胞の形態変化も大きいことから,内皮細胞は複雑な血流の影響を受けて機能の変化が生じていることが推察された.
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