研究概要 |
本年度は最終年度として,主題に関し以下の3点から多角的に検討を加えた. 1.内皮細胞におけるVCAM-1の発現と動脈硬化の局在性 動脈壁におけるマクロファージの内皮下組織への浸潤には,内皮細胞表面に発現するVCAM-1が大きく関与している。そこでモルモットを実験動物として用い,測定対象部位として大動脈弓部,下行大動脈を選び,血流の状態と内皮細胞に発現するVCAM-1の関連性を検討した.大動脈弓部ではVCAM-1は内皮細胞表面に環状に多数分布していた.それに対して下行大動脈では,VCAM-1は全体的に線状に分布しており,明らかな分布の違いが見られた. 2.流れの方向変化が培養内皮細胞に及ぼす影響 生体内おける逆流や二次流れが内皮細胞に及ぼす影響を検討するため,流れの方向変化が培養内皮細胞に及ぼす影響を調べた.その結果,30分,1時間間隔で直交方向に流れの方向を変化させて,2Paのせん断応力を24時間負荷すると,2つの流れの平均的な方向へ配向・伸長した.ところが,3分間隔で方向を変化させた場合には,24時間負荷後には多くの細胞が基質から剥がれ,基質に残った細胞にはストレスファイバが観察されなかった.この現象は,短時間の流れの方向変化に内皮細胞が対応できず,ストレスファイバの形成が行われずに,基質から剥がれてしまったと考えられる. 3.動脈組織片を用いた内皮細胞へのせん断応力負荷装置の開発 従来,培養内皮細胞を用いた実験と動物実験では矛盾点が生じている.そこで,摘出したウサギの動脈組織内面に流れを負荷する装置の開発を行った.血管軸と直交に1Paのせん断応力を負荷した結果,内皮細胞は72時間後に新たな流れの方向に配向した.これにより,装置の妥当性が確認された.
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