血管平滑筋細胞の増殖異常特徴とする動脈硬化症に陥った病変部の血管は、血管平滑筋細胞の緊張異常(血管彎縮など)を伴うことが多い。本研究では、血管平滑筋細胞の増殖と血管機能(特に血管収縮と細胞質Ca^<2+>動態)との関係について、検討した。 初年度は、血管平滑筋細胞のCa^<2+>チャネルのタイプが細胞周期の進行に伴って、変化することを見出した(Circ.Res.1996)。さらに、次年度からは、動脈硬化の進展に重要な役割を果たしていることが知られている血小板由来増殖因子(PDGF)の血管増殖作用と細胞質Ca^<2+>動態との関係について検討するために、血管平滑筋細胞の初代培養細胞のみならず、in vivoの動物を用いた実験を開始し、本年度にかけて、以下の結果を得た。 1) 初年度・次年度の実験結果から、初代培養血管平滑筋細胞において、PDGFによるG_0⇒G_1期進行を阻止することが判明したチロシンキナーゼ阻害薬を冠動脈狭窄モデル動物に投与してみた。培養細胞の増殖を阻害する濃度範囲で、チロシンキナーゼ阻害薬は、冠動脈の狭窄形成を著明に阻害させた。 2) PDGFによるG_0⇒G_1期進行における細胞質Ca^<2+>濃度([Ca^<2+>]i)上昇の役割を明らかにするために、Ca^<2+>流入を阻害する薬剤として、3種類のCa^<2+>拮抗薬およびニッケルを用いた。これらの薬剤において、[Ca^<2+>]i低下と細胞周期進行抑制の間には、相関がなかった。 特に、PDGFによる[Ca^<2+>]i上昇をほぼ完全抑制するニッケルは、細胞周期進行にはほとんど無効であった。従って、Ca^<2+>拮抗薬の細胞増殖抑制作用は、本来のCa^<2+>流入阻害作用以外のメカニズムによるものと思われた。また、PDGFによるG_0⇒G_1期進行において、[Ca^<2+>]i上昇は、重要な役割を果たしていないものと考えられた(Eur.J.Pharmacol.1998)。
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