ヒトの先天異常として代表的な、無脳症、唇口蓋裂、四肢の奇形、心血管奇形、臍帯ヘルニアなどの発生異常をきたすMsx1およびMsx2遺伝子のノックアウトマウスを用いて、これらの先天異常の分子機構を解明しようと試みた。四肢の形成については、Msx1およびMsx2は、肢芽前部において間葉でのBMP4の発現を誘導し、肢芽におけるFGF4およびShhの発現をも調節していること、これらのシグナル経路が阻害されると結果として橈骨および脛骨の欠損ならびに多指症をきたすことを明らかにした。また、また、指間組織のアポトーシスは、BMP四→Msx2→アポトーシス関連遺伝子というシグナル経路により誘導されること、このシグナル経路が障害されると合指症をきたすことを明らかにした。胸腹壁の形成については、Msx1およびMsx2は、Pax3、Shh、WntととみmyotomeにおけるmyoDの発現を調節していること、このシグナル経路が阻害されると心脱および臍帯ヘルニアをきたすことを明らかにした。心血管の形成については、Msx1・Msx2ダブルノックアウトマウスに認められた心血管奇形は、ニワトリの心臓神経堤のアブレーションにより生じる奇形とほぼ一致していたことより、神経堤細胞の形成、遊走、増殖・分化にMsx1およびMsx2が重要な役割を担っていることが考えられたが、神経堤細胞の遊走以後の段階でのマーカーがマウスでは知られていないので、どの段階にどの程度Msx1およびMsx2が機能するのか詳細に解析することはできなかった。無脳症および唇口蓋裂については、種々の分子を調べたが、Msx1およびMsx2の関係するシグナル経路を明らかにすることはできず、今後の課題として残された。Msx1およびMsx2欠損マウスの各組織を用いたdifferential displayにより、欠損マウスにおいて発現が減少あるいは増加する新規な下流遺伝子を数個クローニングした。下流遺伝子の同定は、Msx1およびMax2の転写因子としての機能を理解するのに役立つと期待される。
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