本研究はNMDA受容体イオンチャンネル部位へのリガンド接近メカニズムに着目し、open channel stateとclosed channel stateの織別およびその機能変化を捉えることが可能なインビボリガンドの開発を目指している。その戦略として、疎水的経路により受容体に結合するリガンドTCP分子、親水的経路により結合部位に接近するリガンドとしてキノリジニウム分子を選択し設計、^<11>Cあるいは^<18>F標織合成およびその結合特性を評価した。TCP分子のシクロヘキサン環にCH_2O^<11>CH_3基を持つラジオリガンドの標織合成はO-メチル化反応によって、合成時間24分、放射化学的収率40%で達成した。正常マウスにおけるインビボ結合を検討した結果、この^<11>C-標織リガンドは高い脳移行性を示したが、脳での放射能保持は観察されず、受容体特異性に乏しいものと考えられた。ジチエニルエチレンがDiels-Alder付加したアゾニアアントラセンを基本骨格とし、チオフェンの2位にフルオロエチル基を、アゾニアアントラセンの8位にフルオロエトキシ基を導入したものを設計した。ジチオフェンを有するジエノフィル体は、非対称の3級アルコール体を経て合成し、さらにDiels-Alderによりヒドロキシ体へと誘導した。ジエノフィルをフッ素化した後、DieIs-Alder反応を行ってフルオロエチル体を得る新規合成法を開発した。標織合成では、Diels-Alder反応を短時間で進行させる必要があり、溶媒の検討を行ない、CF_3CH_2OH中でのDiels-Alder反応が大幅に加速されることが分った。また、マイクロウエイブ波の活用は、さらなる加速効果がえられることを見出した。また、8-ヒドロキシ体は、容易にフルオロエトキシ体へと変換できた。^<18>F標織フルオロエチル体は、担体無添加の^<18>Fイオンを用いる新規合成経路により得られた。^<18>F標織化にDiels-Alder反応を利用した例は知られていないことから、このアプローチはより複雑な^<18>F標織化合物合成の可能性を開いたものといえる。^<18>F標織フルオロエチル体は、非標織体と同様な方法で8-ヒドロキシ体から放射化学的に高純度で得られた。NMDA受容体への結合能を能ラットホモジネートを用いて[^3H]TCPとの競合阻害実験にて評価した。フルオロエチル体およびフルオロエトキシ体基のいずれも大きな活性低下には至らず、インビボでの更なる基礎的な評価が必要であると考えられた。
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