本年度は発達傷害の観点からの分裂病モデルとしての幼若期海馬傷害ラットの作成と、分裂病の脆弱性のモデルとしての覚醒剤慢性投与ラットからのP3様成分の導出して分裂病に認められるP300減衰の動物モデルの作成を試みた。 1.幼若期海馬傷害ラットの作成にあたっては、生後7日目のラット海馬にイボテン酸を注入してこれを破壊した傷害群と人工脳脊髄液を注入した対照群を、同一母ラットのもとで飼育し、生後35日目に環境変化、生理的食塩水腹腔内投与、覚醒剤急性腹腔内投与の3つの条件における自発運動量を測定した。生後56日目には同様の条件およびフェンサイクリジン投与での自発運動量の測定を行った。生後35日目では各条件とも傷害群と対照群の間に行動上の差は認めなかったが、56日目で環境変化、覚醒剤急性投与、フェンサイクリジン投与に大して、傷害群では有意な行動量の増加が認められた。この結果は、分裂病が思春期以後に多発することと関連しているものと考えられた。 2.一方内側前脳束刺激を報酬として2音弁別課題を学習させたラットからヒトのP300に相同のP3様成分を記録した後、MAP群と対照群にわけ、対照群には生理的食塩水を慢性投与し、MAP群には覚醒剤慢性投与を行って分裂病の脆弱性・再発準備性のモデルと考えられる逆耐性を獲得させた。その後P3様成分を再記録したところ、対照群ではP3様成分の振幅、潜時とも変化がなかったが、MAP群ではP3様成分の振幅のみが有意に減衰した。この結果は、分裂病の病態とある側面を共有すると考えられる動物モデルでも、分裂病のP300減衰と同様の変化が認められることを意味しており、今後は海馬傷害ラットからP3様成分を導出することで、より有用なP300減衰の動物モデルの作成を試みたい。
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