ヒト成長ホルモン産生下垂体腫瘍は小児では巨人症を、成人では先端巨大症を呈する。この腫瘍組織を酵素的に単離して細胞を調べてみると、神経細胞と同じ様な自発性活動電位を示す。この活動電位は細胞外のカルシウムイオンに依存しており、活動電位に伴う細胞内へのカルシウム流入が成長ホルモン分泌に重要な役割を果たしている。先端巨大症では成長ホルモン刺激ホルモン(GHRH)投与により成長ホルモン分泌が刺激される群と刺激されない群とがある。刺激される群の腫瘍細胞ではGHRH投与により非選択性陽イオンチャネルの活性化と電位依存性カルシウムチャネル電流の増大がおこる。これらの機序により細胞内へのカルシウム流入が増大する。これらの反応は膜透過性のcAMPアナログである8Br-cAMPによっても再現できる。GHRHによっても反応しない群の細胞を調べてみると、GHRHと投与や8Br-cAMP投与によっても非選択性陽イオンチャネルの活性化や電位依存性カルシウム電流の増大が起きなかった。またcAMP・Aキナーゼ系を抑制するRp-cAMPSを投与すると、基礎レベルでの電流の減少と電位依存性カルシウム電流の抑制が見られた。これらの事実からGHRH非反応群では細胞内cAMPが既に活性化された状態にあることが示唆された。先端巨大症の腫瘍の一部にはGs蛋白の点変異とそれに伴う細胞内cAMPの増加が起こっている事が報告されている。Gs蛋白の点変異はコドン201と227に集約されており、これらの点変異についてRT-PCR法を用いて検討すると、GHRH非反応群の多くの腫瘍ではこれらの点変異のいずれかが存在する事が明らかとなった。単一の腫瘍細胞での変異の有無を調べるためsingle cell RT-PCR法を用いたが、これによっても点変異の存在が確認された。
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