本年度は、成長ホルモンの顆粒分泌に与える電位依存性チャネルからのカルシウム流入と細胞内cAMPの影響を主に検討した。2位相フェイズロックアンプを用い、ヒト成長ホルモン(GH)産生下垂体腺腫細胞におけるGHの顆粒分泌を膜容量の変化として捉え、経時的にこれを測定した。手術時に得られたヒトGH産生下垂体腫瘍は酵素的に単離し、10%FCSを含むDME培地で培養した。膜電流、膜電位の測定はパッチクランプ法の変法である穿孔ホールセルクランプ法を用いた。電位固定法下で膜電位を電位依存性カルシウムチャネルの閾値以下に固定し、閾値以上の脱分極パルスを与えると膜のコンダクタンスの増加と膜容量の増加が認められた。過分極側にシフトさせても変化は見られなかった。カルシウムチャネル阻害物質であるニトレンジピンによってこの膜容量の増加は抑制された。電位依存性カルシウムチャネルの閾値以下でホルモン分泌刺激物質であるGHRHや8Br-cAMPを投与しても膜容量の増加は認められなかった。脱分極刺激を与えて膜容量の増加が一定になった後にGHRHや8Br-cAMPを投与すると、さらなる膜容量の増加がみられた。これらの事実はcAMPをセカンドメッセンジャーとするGHRHによるGHの分泌刺激反応には、電位依存性カルシウムチャネルが活性化していることが前提条件であることが判明した。従来、細胞内cAMPとカルシウムがどの様な相互関係でホルモン分泌を刺激するかは十分明らかとはされていなかったが、電位固定法下での膜コンダクタンスと膜容量の独立測定によりその関係が明らかとなった。
|