昨年度までの本研究において、正常ヒトバゾプレシン遺伝子にmetallothionein-Iプロモーター遺伝子を付加したコンストラクトを用い、基礎状態ならびに金属イオンの投与によりバゾプレシンを過分泌するトランスジェニックラットを作製した。今年度は、第一段階として得られたトランスジェニックラットにおいて、免疫組織化学法およびin situ hybridization法等を用いてバゾプレシンの各臓器における発現量の検定を行い、視床下部の正所性発現ならびに体内の広い臓器に異所性の発現を認めた。さらに細胞系を用いて産生されているバゾプレシンが生物活性を持つこと確認した。また、病態生理学的解析を目的としてトランスジェニックラットをバゾプレシン分泌不適切症候群(SIADH)のモデルラットとしてin vivo実験に供するための基礎的検討を行った。これまでの検討において、トランスジェニックラットでは血中、尿中バゾプレシン濃度は正常の数〜十数倍程度に増加しているが、血清ナトリウムや尿浸透圧等にはSIADHで認められるような典型的な変化が発生していないため、バゾプレシンの過剰状態による腎集合尿細管V2受容体のdown regulationが発生している可能性の有無について検討する必要性が考えられた。そこで、あらかじめバゾプレシンのV2受容体に対する特異的拮抗剤で前処置した後、液体食で水負荷を行うと著明な低ナトリウム血症が発生することが明らかとなり、V2受容体のdown regulationの存在が確認された。今後、down regulationを解除した後、SIADHモデルとしての解析を進め、バゾプレシン分泌異常状態下の病態の検討等を行う予定である。
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