われわれは従来からバゾプレシンの遺伝子発現機構を解明する研究を進めてきたが、バゾプレシン(AVP)産生ニューロンを起源とする培養細胞系が存在しないため研究には下垂体前葉細胞由来のAtT20細胞等を用いざるをえなかった。しかし、AVPの合成・成熟の経過を正確に再現するためには、軸策内輸送時の修飾過程を含めた生理的機能をもつモデルを作成する必要性が考えられた。そこで本研究ではヒト正常AVP遺伝子を過剰発現するトランスジェニック(TG)ラットの作製を研究の第一段階の目的とし。さらに、これによって得られたTGラットにおけるAVPの作用機構およびAVPの関与した病態についてin vivoにおける解析を同時に行った。はじめにAVPの正常ヒト遺伝子をS-Dラットに導入し、その過剰発現をきたすTGラットの作製を行った。TG動物としては通常作製が簡便で繁殖・飼育が容易であるマウスを用いるが、今回の実験ではinvivo実験を行う前提のため、あえて作製が困難であるTGラットを作製した。TGラット作製の第一段階としてヒトAVP遺伝子の上流にmetallothionein-Iプロモーター遺伝子を付加したDNAコンストラクトを作製し、これを正常雌ラットの前核期受精卵に注入後、偽妊娠状態の雌ラットの卵管内に受精卵を挿入し仔ラットを得た。以上の研究の結果得られたTGラットにおいて、in situ hybridization法を用いて各組織における発現量を検定し、同時に免疫組織化学法により蛋白レベルでの局在の検討も併せて行った。また、病態生理学的解析を目的としてTGラットをAVP分泌不適切症候群のモデルラットとしてin vivo実験への応用を試み、慢性的AVP過剰状態下におけるAVP V1およびV2受容体を介した作用機構の変化について新知見を得た。今後、このTGラットを用いてAVPの生理的、病態生理的役割の解析について研究を進めるとともに、高血圧症発症とAVPの関連等についての主題の解析も併せて行う予定である。
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