研究概要 |
甲状腺がんの発症機序を解明するために、本年度は、甲状腺細胞のアポトーシスからの逸脱と放射線抵抗性およびDNA修復能について解析をすすめた。 放射線照射により甲状腺細胞がアポトーシスに対して抵抗性があることをin vitroとin vivoで確めた。 放射線照射後に、p53タンパクが細胞内で増加することを認め、p53依存性アポトーシスが誘導されない理由を解明するために、p53下流で転写活性の調節を受けている遺伝子群(Bcl-2,Fas,Bax,GADD45,Waf1)について、その発現を調べた。その結果、GADD45,Waf1はp53の発現誘導に相関して転写活性の増加を認めたが、Bcl-2,Fas,Bax遺伝子に関しては、p53タンパク量により発現調節を受けていないことがわかった。 DNA修復能を調べる目的でDNA end-joining分析を用いおこなった結果、正常p53の発現が増加することでDNA end-joiningが促進することが確認された。 以上の結果より、甲状腺細胞では放射線によりアポトーシス抵抗性が見られ、細胞内に誘導された正常p53の作用によりDNA再接合が促進されることが示唆された。すなわちチェルノブイリの甲状腺がんで高頻度で認められるRetがん遺伝子の再配列の一機序を明らかにすることができた。 この結果は、Oncogene14、1511-1519、1997誌に報告した。
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