研究概要 |
本年は前年度の研究成果を受けて研究を進め以下の様な成果が得られた。 1、ATL腫瘍細胞で特異的に発現の異なる遺伝子のパネルの拡大: 使用するプライマーを増加し、個体差をキャンセルしてATLに特異な変化を効率的に同定するため、同時に比較する正常及びATL検体の数を増加して蛍光DDRT-PCR(FDD)を続行した。これまでに得られた発現レベルの異なるcDNA断片は総計50クローンとなった。うち30クローンはATL細胞で発現が亢進し、20個は発現が低下していたものであった。今年度新たに発現レベルが異なる遺伝子として同定されたものには、LSP1,DJ-1,Lck-ligand,Fyn binding protein(FYB or SLAP-130)等、Tリンパ球のシグナル伝達に関与するsignal transducer,adaptor moleculeに属する分子が複数含まれていた。現在、TCRコンプレックスからのシグナル伝達経路に位置するFyn,Lck,ZAP70およびCD28 costimulatory receptorに結合するItk等のprotein tyrosine kinase群、さらにこれらと結合してシグナル伝達に関与するFYBを始めとするsignal transducer群に関して、包括的にその発現動態を明らかにする作業を進めている。また、今後もFDDを継続し、少なくとも100クローン以上のcDNA断片を得て、Tリンパ球の増殖に関わるシグナル伝達・細胞周期を制御する遺伝子の発現異常に関しても包括的な記載を目指す。 2、未知の遺伝子の全長cDNAのクローニングと構造および機能の解析: 以上の解析の過程でATL腫瘍細胞をはじめ白血病細胞及びT細胞株で高発現する新規のレセプター様分子を同定した。この分子は336アミノ酸からなる約37kDaの、細胞外領域にシステイン残基のクラスターを有する膜1回貫通型のI型膜蛋白質であった。細胞質内領域にはプロリンのクラスターが認められたが、既知のキナーゼドメイン等の機能部位は認められなかった。この遺伝子は第12番染色体長腕に存在するシングルコピーの遺伝子であり、ひと以外の真核生物で広く保存されている事が明らかになった。現在、この分子に対する抗体およびIgキメラを作製し、機能の解析とそのリガンドの同定を目指している。
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